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2024-10-0611 min read

【DTM】視覚を使わずにDTMで作曲する方法

目次

はじめに

この記事はスクリーンリーダーを使って DTM で作曲する手順をまとめたものです。
視覚に障害がある方の参考になれば幸いです。

DTM(デスクトップミュージック)は、従来の楽器やスタジオを使った作曲とは異なり、パソコン上で完結する作曲方法です。
通常、細かい操作にはマウスを使用しますが、「Reaper」というソフトウェアと「Osara」というプラグインを使うことで、キーボード操作とスクリーンリーダーの読み上げを利用して作曲が可能です。

さらに、「UTAU」というソフトウェアを使えば、音声合成によるボーカルを作成することもできます。
こちらもスクリーンリーダーを使って操作できます

全体の流れ

全体の流れは以下の通りです。

  1. Reaper でメロディを作る
  2. UTAU にメロディをインポートしてボーカルを作る
  3. Reaper にインポートする

準備

この記事では NVDA と Windows(64 ビット) を想定して執筆しています。
また、トラックや MIDI などの DTM の専門用語に関しては youtube などで数多く解説されているためそちらを参考にしてください。

Reaper のセットアップ

Reaper→SWS→Osara の順番でインストールします。
SWS は Reaper を便利にするツールであり Osara の動作に必要です。
インストール画面では基本的に何も変更せずにデフォルトのままで勧めていきます。

まずは Reaper(DAW)のインストールです。

  1. Reaper のダウンロードページから Windows(64 ビット)向けインストーラーをダウンロードします
  2. ダウンロードした EXE ファイルを実行してインストールします

次に SWS(Reaper の拡張ツール)のインストールです。

  1. SWS のダウンロードページから Windows(64 ビット)向けインストーラーをダウンロードします
  2. ダウンロードした EXE ファイルを実行してインストールします

最後に Osara(Reaper をスクリーンリーダーで操作できるようにするツール)のインストールです。

  1. Osara のダウンロードページから Windows 向けインストーラーをダウンロードします
  2. ダウンロードした EXE ファイルを実行してインストールします
  3. 途中で既存のキーマップを置き換えるかと聞かれるので Yes を選択します

その後 Reaper を起動します。

起動直後には毎回 Reaper の概要画面が表示されます。数秒待つと Esc キーで閉じることができます。
有料のライセンスを購入するとこの画面はなくなります。Reaper が気に入ったらライセンス購入しましょう。

基本操作

Tab キーを押すと次へ、Shift + Tab キーを押すと前へフォーカスが移動します。フォーカスされた項目名がスクリーンリーダーで読み上げされます。
ダイアログ上では TAB キーでフォーカスを移動、上下左右矢印キーで項目を選択、Enter または Space または NVDA+テンキーの Enter で操作を実行します。
あとは基本的に対応するショートカットが用意されています。

メイン画面での操作の一例:

  • Space: 再生と停止
  • 上下矢印キー: トラックの選択
  • Ctrl+Home: 再生カーソルを先頭に移動する
  • PageUp/PageDown: 再生カーソルを 1 小節ずつ移動する
  • Ctrl+PageUp/Ctrl+PageDown: 再生カーソルを 1 拍ずつ移動する

メロディ用のトラックを作る

以下は Reaper の初期音源である ReaSynth を選択してトラックを作成する手順です。
もし Insert キーが NVDA キーに設定されている場合はうまく動作しないため NVDA キーを変更するかテンキーの Insert キーを使用してください。

  1. メイン画面で Ctrl + Insert キーを押します。すると仮想インストゥルメントの追加画面が開きます
  2. Tab キーを何度か押してツリー要素を見つけます
  3. 上下矢印キーを押してツリー要素の中の Instruments を見つけます
  4. Tab キーを 1 回押します。するとリスト要素に移動します
  5. 上下矢印キーを使って「VSTi: ReaSynth (Cockos)」を見つけて Enter キーを押します
  6. FX 画面が表示されます。今は使わないので Esc キーを押して閉じます
  7. するとメイン画面に戻ります。トラックが追加されていたら成功です

MIDI アイテムを作る

トラックの中に MIDI 用のアイテムを必要な長さだけ作成します。
1 アイテムの長さは 1 小節なので例えば 4 小節の長さにしたいなら 4 つアイテムを作成します。

以下は 4 小節の長さのアイテムをトラックに追加する手順です。

  1. メイン画面で上下矢印キーを押して追加先のトラックを選択します
  2. Ctrl + home キーを押してカーソルを先頭に移動します
  3. Shift + Insert キーを押すとアイテムが追加されます。さらに 3 回繰り返して合計 4 つのアイテムを追加します
  4. Ctrl + 左右矢印キーを押すとそのトラック内のアイテムを選択できます。この時点でアイテムが 4 つあるはずです
  5. 左端のアイテムを選択してから Ctrl + Shift + 右矢印キーを 3 回押します。すると 4 つのアイテムが選択されます
  6. Ctrl + U キーを押します。すると選択したアイテムが結合されます
  7. アイテムの数が 1 つになっていたら成功です

メロディを打ち込む

メロディの打ち込みは Reaper 内蔵の MIDI エディタで行います。
打ち込みはグリッドと呼ばれる格子状の土台の上に音符を配置していくようなイメージです。
追加される音符の長さはグリッドサイズに応じて変化します。例えばグリッドを 1/4 にすると 4 分音符が追加されます。
グリッドの長さを変更 → 音程を変更 → 音符を追加という手順を繰り返してメロディを打ち込みます。

  1. トラック上で Ctrl + 左右矢印キーを押して目的のアイテムを選択します
  2. Ctrl + Alt + E キーを押します。すると MIDI エディタが開きます
  3. 数字キーの 4 を押します。するとグリッドの幅が 1/4 (4 分音符)になります
  4. Shift + Alt + 左右矢印キーを押すとグリッド上のカーソルを移動できます。グリッドが 1/4 なら 1 拍ずつ移動されます。
  5. 小節は bar、拍は beat のように読み上げられます。例えば 1bar1beat は 1 小節目の 1 拍目です
  6. Alt+上矢印キーで半音ずつ上がり、Alt+下矢印キーで半音ずつ下がります
  7. I キーを押します。すると現在のカーソルの位置に音符が追加されます
  8. 上下矢印キーでカーソル上にある音符を選択できます
  9. 音符を選択した状態で N キーを押すと半音ずつ音が上がります
  10. 音符を選択した状態で Shift+ N キーを押すと半音ずつ音が下がります
  11. 音符を選択した状態で L キーを押すと現在のグリット分音符が伸びます
  12. 音符を選択した状態で Shift+L キーを押すと現在のグリット分音符が縮ます
  13. 音符を選択した状態で Delete キーを押すと音符が削除されます
  14. 音符を選択して Ctrl+C でコピー →Ctrl+V で貼り付けできます。
  15. 音符をコピー・貼り付けしてから n または Shift + n で音程を変更することで和音も作れます
  16. Ctrl+Shift+A で現在のカーソル上の音符をすべて選択できます。和音を選択するのに便利です

スペースキーで再生して音を確認しながらメロディを作ります。
Ctrl + F4 キーを押すと MIDI エディタが閉じてメイン画面に戻ります。
Ctrl + S で保存するのも忘れないようにしましょう。

MIDI ファイルとしてエクスポートする

後ほど UTAU でインポートできるようにメロディを MIDI ファイル(.mid)としてエクスポートします。
以下は選択中のトラックを MIDI ファイルとしてエクスポートする手順です。

  1. メイン画面で上下矢印キーを押してメロディのトラックを選択します
  2. Alt キーを何度か押してメインメニューを選択します
  3. 上下矢印キーを使ってメニューバーの File→Export project MIDI を選択します
  4. すると MIDI のエクスポート画面が開きます
  5. Tab キーと上下矢印キーを使って「Selected tracks only」というラジオボタンを見つけて Space キーを押します
  6. Tab キーを何度か押して OK ボタンを見つけて Enter キーを押します
  7. すると MIDI ファイルが生成されて出力先パスが表示されます。Esc キーを押して閉じます

MIDI ファイルの出力先はドキュメント → REAPER Media → Media → プロジェクト名 + .mid です。
Windows のエクスプローラーで保存先フォルダを開いて MIDI ファイルがあることを確認します。

UTAU のセットアップ

UTAU は歌声合成ソフトウェアです。
歌声合成ソフトウェアといえばボーカロイドが有名ですが、UTAU は個人でも音源を作成して配布できるという特徴があります。
数多くの音源ライブラリが配布されており、それらの歌声を使用して作られた有名曲も多く存在します。
MIDI ファイルを読み込んで、歌詞を入力することでボーカルを生成できます。

  1. UTAU のダウンロードページから最新版のインストーラーをダウンロードします
  2. ダウンロードした EXE ファイルを実行してインストールします
  3. 原音レポートが表示されたら閉じます

インストール直後の UTAU にはデフォルトの音源(歌声)しかありませんが、追加で音源ライブラリをインストールすることで、使用できる歌声を増やすことができます。
音源ライブラリは有志によって様々なものが作成されており、それぞれに個性があって面白いです

UTAU に重音テトを追加する

重音テト(かさねてと)は、UTAU の音源ライブラリのひとつです。
もともとは 2008 年のエイプリルフール企画として生まれましたが、多くのユーザーに長年愛されており、最近でも人気曲で使用されるなど注目を集めています。
重音テトにはさまざまなバージョンがありますが、今回は UTAU 版を使用します

  1. 重音テトのダウンロードページから「通常音源 ライブラリー Standard voice」の「通常音源 単独音+連続音」をダウンロードします
  2. UTAU を起動します
  3. ダウンロードした ZIP ファイルを転回せずにそのまま UTAU の画面へドラッグアンドドロップします
  4. 成功すると原音の追加画面が表示されるので登録ボタンを押します

スクリーンリーダーの利用者にとってはマウスを使ったドラッグアンドドロップが一番の難関ですが何度か試していれば成功します。
誰かに手伝ってもらうか NVDA のプラグインを使うなどもっと楽な方法があるかもしれません。

MIDI ファイルを UTAU にインポートする

UTAU に MIDI ファイルをインポートして歌詞をつけます。
注意点として、MIDI をインポートする際にトラックが 2 つ表示されます。
2 番目のトラックがメロディのトラックなのでそれを選択します。予めトラック名を「melody」などの分かりやすい名前にしておくことをおすすめします。

  1. UTAU のメイン画面で Alt キーを押してメニューバーを選択します
  2. ファイル → インポートを選択します
  3. ファイル選択画面が開くので先ほど作成した MIDI ファイルを選択します
  4. トラックの選択画面が表示されます
  5. Tab キーを何度か押してリスト要素をフォーカスします
  6. 上下矢印キーを押して 2 番目のトラックを選択します
  7. Tab キーを何度か押して OK ボタンを見つけて Enter キーを押します

音源ライブラリを重音テトに変更する

この時点ではデフォルトの音源ライブラリになっているので重音テトに変更します。

  1. UTAU のメイン画面で Alt キーを押してメニューバーを選択します
  2. プロジェクト → プロジェクトのプロパティを選択します
  3. Tab キーを何度か押してコンボボックスをフォーカスします
  4. 「デフォルト」となっているので上下矢印キーを押て「重音テト(かさねてと)音声ライブラリー」に変更します
  5. Tab キーを何度か押して OK ボタンを押します

MIDI に歌詞をつける

読み込んだ MIDI に歌詞をつけていきます。
注意点としては歌詞の文字数と音符の数が合わないとそこから後ろの歌詞がずれてしまいます。音符と歌詞は 1 対 1 で合わせるようにしましょう。

  1. メイン画面で Tab キーを何度か押して空のエディット要素(エディット ブランクと読み上げされる要素)をフォーカスします
  2. すべてひらがなで歌詞を入力します
  3. Tab キーを一回押します。ボタンがフォーカスされます
  4. Enter キーを押すと歌詞が適用されます

歌詞について:

  • 歌詞はすべてひらがなで入力します。カタカナや漢字は読まれません
  • 音符の数と文字数を先頭から合わせます。例えば「オレンジ」は 4 音、「チュロス」は 3 音になります
  • 長音符(伸ばし棒)はロングトーンで表現します。例えば「ちず」は 2 音ですが 1 音目を長くすれば「ちーず」のように母音で伸ばされます。もしくは「ちいず」のように 3 音でも表現できます
  • 促音(小さい「つ」)は音符の間隔を少し空けて表現します。例えば「ずっと」は「ずと」という 2 音の間に 1 つ分の音符を空けます。もしくは「ずうと」のように 3 音でも表現できます
  • 「づ」(つ+濁音)は読まれないのでかわりに「ず」(す+濁音)を使います
  • 助詞の「は」を「わ」、「へ」を「え」に直します

ボーカルを生成する

歌詞を入力したら再生してボーカルを確認します。

  1. メイン画面で Ctrl+A を押して音符を全選択します
  2. F5 キーを押します。ボーカルの生成が始まります
  3. ボーカルが再生されます。F7 キーで停止できます

歌詞の修正が必要な場合は再び歌詞の入力 → 歌詞の適用 →F5 で再生を行います。

ボーカルをなめらかにする

UTAU のおまかせ機能を使うとボーカルをなめらかにすることができます。
連続音にしたい箇所は予め音符の隙間を空けないようにしておきます。

  1. UTAU のメイン画面で Alt キーを押してメニューバーを選択します
  2. . ツール → 組み込み機能 → おまかせ を選択します
  3. Tab キーを何度か押して「全部」ボタンをフォーカスして Enter キーを押します
  4. 確認ダイアログが出たら OK を押します
  5. メイン画面で Ctrl +A で全選択 →F5 キーを押してボーカルを生成します

ビブラートや連続音が適用されて自然なボーカルになります。
おまかせ画面で細かい設定ができるので曲に合わせて調整もできます。

ボーカルを WAVE ファイルとしてエクスポートする

最後に WAVE ファイル(.wav)として出力します。

  1. メイン画面で Ctrl + A を押して全選択します
  2. F5 キーを押します。ボーカルが生成されます
  3. UTAU のメイン画面で Alt キーを押してメニューバーを選択します
  4. 再生 → 今聞いたものを保存を選択します
  5. ファイル選択画面が表示されるので保存先ファイルを選択します
  6. Windows のエクスプローラーで生成された WAVE ファイルを確認します

Reaper に WAVE ファイルをインポートする

UTAU から出力した WAVE ファイルを Reaper に読み込みます。

  1. Reaper のメイン画面で Ctrl + T を押します
  2. トラック名の入力を求められるので「vocal」と入力して Enter で決定します.。するとトラックが追加されます
  3. Ctrl + Home キーを押して再生カーソルを先頭に移動します
  4. メイン画面で Alt キーを何度か押してメニューバーをフォーカスします
  5. メニューバーの Insert → media file を選択します
  6. ファイル選択画面が表示されるので先程 UTAU で作成した WAVE ファイルを選択します
  7. すると vocal トラックにオーディオアイテムが追加されます

あとは他のトラックと同様にエフェクトをかけたりボリュームを調節したりできます。

曲をレンダリングする

曲ができたら最後に WAVE ファイルとして出力します。
デフォルトの WAVE ファイルの出力先はドキュメント → REAPER Media → プロジェクト名 + .wav です。

  1. Reaper のメイン画面で Alt キーを何度か押してメニューバーをフォーカスします
  2. File→Render を選択すると確認画面が表示されます
  3. 確認画面ではオプションで出力先フォルダやファイル名などを指定できます
  4. tab キーを何度か押して「Render 1 file 」をフォーカスします
  5. Enter キーを押すとレンダリングが始まります
  6. 完了すると出力先パスが表示されます。Windows のエクスプローラーで確認します

曲として完成させる

あとは伴奏やドラムを加えて曲として完成させます。
Reaper に標準搭載されているシンセサイザー「ReaSynth」やサンプラー「ReaSamplOmatic5000」を使って、伴奏をつけることができます。
また、プラグインをインストールすれば、さらに多彩な音を出せるようになります。
Reaper 標準のプラグインの使い方やパラメーター調整については、今後別の記事で詳しく解説する予定です。

おわりに

ここまでの手順でシンプルな曲が作れるようになりました。
Reaper や Osara には、まだ他にも多くの機能やショートカットが用意されています。

DTM には覚えることがたくさんありますが、イメージした曲が形になるのは楽しいですね。
今回はここまでです。

参考リンク

OSARA: Open Source Accessibility for the REAPER Application
Reaper Accessibility Wiki
Blind De REAPER ~視覚障害者のための REAPER 講座~
スクリーンリーダーを使った UTAU 入門・その1

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