はじめに

今回は目が見えない・見えづらい方でもはんだ付けをするための方法について紹介します。 誰かの参考になれば幸いです。

電子工作をしているとはんだ付けは避けては通れません。長期間使うものを作るときや、家電を修理するとき、工作キットを組み立てるときなど、はんだ付けが必要になる場面は多くあります。

僕も最初は苦手でしたが、半年ほど続けるうちにようやく細かいはんだ付けもできるようになりました。 最近は個人でも CAD で設計した PCB を発注できるようになりました。しかし視覚障碍者にとっては、まだ手の届きにくいものだと思います。

そこで今回はいわゆる「手はんだ」について紹介します。 対象とするのは部品のピンを基板の穴に差し込んではんだ付けするスルーホール部品です。 表面実装部品(SMD)は小さいうえに部品や端子の凹凸も少なく、視覚を使わずにはんだ付けするのは難しいため、まだ試していません。

はんだ付けの手順は何十年も大きく変わっていないため、一度覚えてしまえばこの先ずっと役立つスキルになると思います。

注意

  • はんだ付けの際に出る煙は体に悪影響を及ぼすことがあります。直接吸い込まないようにしましょう。
  • はんだ付けをするときは必ず換気をしましょう。
  • はんだごてのこて先は非常に熱くなります。絶対に触れないようにしましょう。(オーブントースターの最高温度よりも熱いです)
  • LED などの熱に弱い部品はこて先を長時間当て続けると壊れることがあります。なるべく 2 ~ 3 秒程度で済ませましょう。一度冷ましてから、もう一度はんだ付けするのもよいです。部品によっては、データシートに「はんだ付けは 5 秒以内」などの条件が記載されています。
  • 作業中は目を保護するためにゴーグルやメガネをかけることをおすすめします。(作業中に顔を近づけすぎて煙が目に入ったり、はんだやフラックスが飛んできたりすることがあるため)
  • 視覚を使えない分、触覚が重要になるため軍手や指サックはしないほうがいいです。
  • はんだ付けが終わったら手をよく洗いましょう。

はんだ付けとは

部品のピンとピン、あるいは銅線と銅線をどんなに固定しても、次第に緩んだり酸化膜によって接触が悪くなります。 一見つながっているように見えても、実際は隙間だらけだったりします。

ブレッドボードも時間が経つと接触が悪くなるし、ちょっと動かしただけで抜けてしまうこともありますよね。 そこで、はんだによって接合部分を金属的につなぐことで電気的にも機械的にもしっかりと固定するのがはんだ付けです。

はんだは主にすずを含む合金で融点が低いのが特徴です。 昔から使われてきたすずと鉛の合金のほかに、現在は鉛を含まない鉛フリーはんだも広く使われています。

さらにフラックス(松脂など)を使うことで金属表面の酸化物を取り除きはんだが金属表面になじみやすくなります。 糸のように長く伸ばされたものが糸はんだとして市販されています。

はんだは固体ですが、熱で溶けると液体になります。 そのため表面張力によって部品のピンや基板のランドに広がります。

そして、冷えて固まると部品と基板の間を金属的に接合してしっかりと固定します。 電気抵抗も低いため電気もよく通します。

また、はんだ付けは再加熱してやり直せます。 はんだを外すときにははんだ吸い取り線という銅線を使う方法があります。はんだ吸い取り線をはんだ付けした部分に当てて上からはんだごてで加熱すると毛細管現象によって溶けたはんだが線にしみ込みます。 より広い範囲のはんだを取り除く場合は、溶けたはんだを注射器のように真空とばねの力で一気に吸い込むはんだ吸い取り器や加熱と吸い取りを同時に行う電動タイプもあります。

用意するもの

以下は 2026 年現在に僕が試したものなので参考までにどうぞ。 より良い商品があればそちらを使うことをおすすめします。

はんだごて: 太洋電機産業(goot)デジタル温調はんだごて PX-280

最初から C 型のこて先がついており 350 度に設定済みなのでコンセントにつなぐだけですぐに使えます。 こて台に置くと自動でスタンバイモードになるのも良い点です。

こて台: 太洋電機産業(goot) はんだこて台 セラミックヒーターはんだごて専用 こて先クリーナー 2 種類付き ST27

太洋電機産業のはんだごてに対応している公式のこて台です。どっしりとしていて倒れる心配がありません。 金属たわしとドーナツ状のスポンジのクリーナーも付属しています。

マルチクランプ: 太洋電機産業(goot)耐熱・導電シリコン使用マルチクランプ 折り畳み可能 ワンタッチ固定 最大クランプ幅 72mm/高さ 35mm ST-85

基板を水平にがっちりと固定できる固定具です。 接触部にシリコンゴムがついているので基板を傷つけにくいです。

ツールクリッパー: 太洋電機産業(goot)作業ヘルパー 逆作用ピンセットタイプ 角度調整可 ツールクリッパー はんだ作業台 ロウ付け ST-95

先端に逆作用ピンセットがついている可動式アームです。部品や電線や後述するステンレスパイプなどを自由な位置にしっかり固定できます。 ボール状の関節をはさんでねじで締めることで好きな角度に固定できます。

逆作用ピンセット: 太洋電機産業(goot)逆作用ピンセット 小 TS-16

先述のツールクリッパーの先端についているものとほぼ同じ逆作用ピンセットの単体です。 押すと開いて離すと閉じます。基板と部品を固定するために複数あると便利です。

フラックスペースト: BEEYUIHF はんだ付けペーストフラックス、SMD PCB BGA 電子機器のはんだ付けおよび修理用電気ロジンはんだ付けフラックス(2.29 オンス/65g)

フラックス(松脂)をペースト状にしたものです。はんだ付け箇所の酸化膜を除去してくれるのではんだがつきやすくなります。 垂れにくくはんだ付け箇所にだけとどまってくれるのが良い点です。

糸はんだ: ENGINEER エンジニア 糸ハンダ 線径 0.6mm 150g SW-11

鉛入りなので融点が低く扱いやすいです。太さも 0.6mm だと細かいところでも使いやすいです。

はんだ吸い取り線: ENGINEER エンジニア ソルダーウイック ハンダ吸取線 1.5mm×1.5m SWU-02

毛細管現象ではんだを吸い取る銅線です。はんだが多すぎてブリッジしてしまった場合などに使います。 横幅は 1.5 ~ 2.0mm が使いやすいです。

ニッパー: ENGINEER エンジニア マイクロニッパー ESD 120mm NS-04

部品のリード線や電線を切るために使います。刃がしっかりと閉じるのできれいに切れます。

ラジオペンチ: ENGINEER エンジニア ミニチュアリードペンチ ESD 静電気対策 132mm PS-04

先端が細くなっているペンチです。リード線を曲げたり電線をつぶしたり引っ張ったりと何かと役に立ちます。

テスター: HIOKI 日置電機 3244-60 カードハイテスタ

小型のテスターです。ダイヤル 1 つだけのシンプルな操作です。 ディスプレイの文字を Seeing AI などで読み上げれば電圧や抵抗も読めます。 ダイヤルには左から順に AC 電圧、DC 電圧、抵抗、導通チェックがあります。 ダイヤルを一番右に回すだけですぐに導通チェックできます。2 本のテストリードが導通するとピーと音が鳴ります。

ステンレスパイプ: さかつう ステンレス パイプ 外径 1.5mm 内径 1.2mm 素材 ノンスケール 4658

後述する糸はんだを通すための細いパイプです。ステンレスなので、はんだが溶けてもつきにくいです。 糸はんだが 0.6mm なら内径 1.0mm か 1.2mm がちょうどいいです。

マスキングテープ: 3M M40J-20[塗装用マスキングテープ]

部品や電線の仮固定に使うテープです。適度な粘着力なので剥がしたあともきれいです。 横幅は 10 ~ 20mm が使いやすいです。

目玉クリップまたは洗濯ばさみ

パイプを固定するためのクリップまたは洗濯ばさみです。 滑り止めがついていてはさむ力が強いものが良いです。

細い綿棒

フラックスペーストを塗るために使います。 通常のサイズでもいいですが細いタイプだとより細かいところに塗れます。

準備

こて台(ST27)に金属たわしをセットします。ST27 にはわしゃわしゃとした金属たわしとドーナツ状のスポンジが付属します。 スポンジの方は本来、水を含ませてからかたく絞って使うのですがこて先の温度を下げてしまうので僕はあまり使いません。 ST27 は斜めに突き出た穴がありそこにはんだごて(PX-280)を差し込みます。 その手前に 2 つ穴があります。手前がスポンジ用で奥が金属たわし用です。金属たわしをそこに詰めます。

はんだごて(PX-280)はなにも設定しなくても構いません。 最初から 350 度に設定済みなので鉛入りはんだを溶かすのに十分な温度になっているからです。

ツールクリッパー(ST-95)を組み立てます。 最初は 3 つの部品に分かれています。土台とピンセット部分にあるボール状の関節をねじのついた部品で挟み込んでねじを回して止めます。 ねじを少しゆるめて角度を調整してまたねじを締めればかなり自由な位置にピンセットを固定できます。

マルチクランプ(ST-85)は折りたたみ式の固定具です。 作業時は垂直に開いて使います。 底面が金属のトレーになっているので溶けたはんだが落ちても机を焦がしにくくなります。基本的にこの金属トレーの上ではんだ付け作業をします。

はんだ付けの手順

例としてピンソケットをユニバーサル基板にはんだ付けする手順です。

  1. マルチクランプに基板をはさんで、はんだ付けしたい面を上に、基板が 6 時方向にくるように調整する。
  2. ツールクリッパーのピンセットにステンレスパイプをはさんで、その上からクリップや洗濯ばさみでステンレスパイプが動かないように固定する。
  3. ステンレスパイプの上から糸はんだを通す。
  4. ステンレスパイプが基板の上にくるようにツールクリッパーの角度を調整する。
  5. 基板にピンソケットを固定する。ピンが上にくるように基板の下から部品を差し込み、逆作用ピンセットやマスキングテープで固定する。
  6. はんだ付けしたいピンに綿棒でフラックスペーストを薄く塗る。塗りすぎたら別の綿棒で軽く拭き取る。
  7. はんだごての電源を入れてしっかり温まるまで数分待つ。
  8. はんだごてが温まるのを待つ間にはんだ付けしやすいように位置を調整する。
  9. 右利きなら対象のピンを中心としたときに 4 時方向からこて先を当てて、8 時方向から糸はんだを供給するような位置になる。
  10. ステンレスパイプの先端は対象のピンに当たるくらい近づける。指先で確かめて角度もしっかりと合わせる。
  11. こて先をこて台の金属たわしに突っ込んで軽くこする。酸化物や汚れが落ちてはんだが乗りやすくなるため。
  12. 温まったこて先を目的のピンに近づける。最初はステンレスパイプに軽く触れて振動で確認する。そこからパイプを下に伝って目的のピンに軽く触れる。
  13. こて先をピンと基板のランドに同時に当てて両方を温める。ピンの根本にこて先の面の部分が当たるようなイメージ。
  14. 2 ~ 3 秒ほどこて先を当てたら糸はんだをパイプに通す。うまく温まっていればはんだがどろっと溶ける感触が手に伝わる。温まっていなければコンコンとまだ固い感触が手に伝わる。
  15. 糸はんだが溶けると独特のにおいでわかることがありますが煙を直接吸い込んではいけません。
  16. はんだをだいたい 1 センチほど送ったら先に糸はんだをパイプから引き抜く。
  17. はんだをなじませるために 1 秒ほど待ってからこて先を離す。
  18. はんだごてをこて台に戻す。
  19. 部品が冷めるまで待ってから触ってはんだ付けされているかをチェックする。成功しているとびくともしないのですぐに分かる。がたがたと動くようならはんだ付けが甘い。
  20. ピンソケットのように隣のピンと近い場合は隣接するピン同士がはんだや電線で接触(ブリッジ)していないかテスターで導通チェックする。
  21. LED や抵抗などの余分なリード線ははんだ付け後にニッパーで切り落とす。

はんだ吸い取りの手順

はんだ付けは失敗しても再加熱してやり直せます。 軽くブリッジしている場合はその箇所だけこて先を当てると表面張力でピンに引き寄せられるためブリッジが解消されることがあります。

はんだが多すぎてブリッジしている場合は以下のようにはんだ吸い取り線を使って余分なはんだを除去します。

  1. あらかじめはんだ付け箇所にフラックスペーストを綿棒で薄く塗っておく。
  2. はんだ吸い取り線を数センチ引き出してニッパーでカットする。
  3. 逆作用ピンセットでそれをつまんで目的のはんだ付け箇所に持っていく。
  4. 温まったこて先をその上に持っていく。ピンセットに伝わる振動でこて先の位置がわかる。
  5. こて先をはんだ吸い取り線の上から当てる。はんだが溶けるまで 2 ~ 3 秒待つ。
  6. はんだ付け箇所からこて先とはんだ吸い取り線を同時に離す。(別々に離すとはんだが固まってしまうため)
  7. テスターで導通チェックする。ブリッジが解消されていたら成功。

こて先のクリーニング

こて先は徐々に酸化してはんだが溶けにくくなります。 細かい酸化物がこて先についていることがあるので作業中はこまめに金属たわしでこて先をきれいにします。

はんだ付け作業が終わったら電源を抜く前にこて先にはんだメッキをすると酸化しにくく長持ちします。 本当にこて先にはんだが乗っているかわからないため、視覚が使えないとこの作業が一番難しいです。

ステンレスパイプをこて先に当たるくらいに近づけてはんだを多めに供給します。 終わったらこて台にそっとはんだごてを置き電源を抜きます。

十分に冷めたらこて先を確認します。でこぼこ、ざらざらとしていたらおそらくはんだメッキできています。

はんだがうまくつかない時

  • 扇風機やエアコンの風が基板やこて先に当たってると温度が下がってしまいはんだがうまく溶けません。直接風が当たらないようにしましょう。
  • こて先に酸化物がついているとうまく熱が伝わりません。金属たわしでこて先をきれいにしましょう。
  • はんだ付け箇所にうまくこて先が当たってないと熱が伝わりません。点ではなく線や面で当たるようにするとうまくいきます。はんだごてに電源が入ってない状態でリハーサルするのも良いと思います。
  • はんだが溶けないからといってこて先を当て続けると熱で部品が壊れることがあります。一度冷ましてからやり直すのも良いと思います。

固定を工夫する

  • ピンソケットやピンヘッダーは両端から先にはんだ付けするとずれにくいです。また、マスキングテープだけだとこて先を当てた時に浮いてしまうので、逆付きピンセットで基板と部品がしっかり密着するように固定します。
  • 電線同士のはんだ付けは空中で行うとうまくいかないのでマルチクランプの底面などの金属のトレーにマスキングテープで固定して下へ押し付けるようにして行います。
  • 電線同士は ペンチで V 字型に折り曲げてお互いをフックのようにひっかけてからはんだ付けすると強度が上がります。
  • 基板を上から見て左上にマスキングテープで印をつけておくと基板を回転しても配線が迷子になりにくいです。

おわりに

ユニバーサル基板の穴と穴との間隔は 2.54 mm しかないので、最初は「見えないのにこんなの無理だろ」と思っていたのですが、だんだんと間隔を狭くしていくことでできるようになりました。 はんだ付けができるようになって工作の幅が一気に広がりました。

今回の記事は以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考

全盲のはんだ付けの方法

工具の使い方と電子工作のコツ | 村田製作所